東京高等裁判所 平成7年(行ケ)91号 判決 1995年12月13日
東京都豊島区南池袋2丁目22番1号
原告
三和エクステリア株式会社
代表者代表取締役
友山誠治
東京都新宿区西新宿2丁目1番1号
原告
三和シヤッター工業株式会社
代表者代表取締役
高山俊隆
両名訴訟代理人弁理士
廣瀬哲夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
指定代理人
吉山保祐
同
瀬尾和子
同
土屋良弘
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者が求めた判決
1 原告ら
特許庁が、平成3年審判第8414号事件について、平成7年1月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らを共同出願人とし、昭和62年意匠登録願第14985号の意匠を本意匠とする、意匠に係る物品を「門扉」とし、その構成を本願願書に添付された図面(別添審決書写し別紙第一の図面と同じ、以下「本願図面」という。)に示すとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)の類似意匠登録出願(出願日昭和62年4月16日、同年意匠登録願第14988号)をしたところ、平成3年2月28日、拒絶査定を受けたので、同年4月30日、特許庁に対して、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成3年審判第8414号事件として審理をしたうえ、平成7年1月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は、平成7年3月6日、原告らに送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願意匠は、本願出願前に頒布された昭和56年2月2日発行の意匠公報記載の、意匠に係る物品を「門扉」とし、その構成を同意匠公報図面(別添審決書写し別紙第二の図面と同じ、以下「引用図面」という。)に示すとおりの登録第549123号意匠(以下「引用意匠」という。)に類似し、意匠法3条1項3号に該当するから、意匠登録を受けることはできないとした。
第3 原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由のうち、本願意匠及び引用意匠の認定、両意匠の共通する基本的構成態様の認定、共通する具体的な態様の認定(ただし、本願意匠についても目板状板体が存在し、引用意匠と共通するとの認定を除く。)、具体的な態様の相違点<1>~<3>の認定は認め、その他の相違点を認定していない点、両意匠の類否についての判断を争う。
審決は、本願意匠と引用意匠との相違点を看過し(取消事由1)、意匠法3条1項3号の規定の誤った解釈に基づいて、両意匠との類否判断をした結果、本願意匠は引用意匠に類似すると誤って判断した(取消事由2)。
1 取消事由1(相違点の看過)
(1) 審決は、本願意匠と引用意匠とは、「パネル面部の条溝を、板体を同幅とする板体間に細幅の目板状板体を設けて、該板体と目板状板体を順次嵌合させて、条溝を等間隔に設けている点が共通する。」(審決書3頁14~17行)として、本願意匠についても目板状板体が存在し、この点で引用意匠と共通するとしているが、誤りである。
引用意匠においては、パネル用型材の隣接間にその表面から僅かに中央よりに脚を設けて浅い条溝を形成しているから、パネル用型材(板体)と脚との相関関係が羽目板と目板(板の継ぎ目に打ち付けた幅の狭い板)との相関関係で目透かしした態様(「建築用語辞典」・甲第5号証74頁)と認められ、目板状板体が存在する。
これに対し、本願意匠においては、隣接するパネル用型材及び上下端部のパネル用型材を入れ子縁に呑み込ませないで、それぞれ見込み厚の中央部位に板体を入れ込んで深い条溝が形成されているものであるから、パネル用型材と板体との相関関係は、帯戸の帯桟の納まりのような戸板と桟との相関関係による態様(同号証130~131頁)、もしくは、から戸の領桟(中桟)と帯桟との間に入れ込まれる入れ子板に係る態様と把握するべきであり、したがって、本願意匠におけるパネル面部に条溝を形成する板体は、「戸板状板体若しくは入れ子板状板体」と解すべきであって、「目板状板体」は存在しない。
これを審決のように、「目板状板体」としたときには、単に断面形状の違いのみにとらわれて、框組された空間に形成されたパネル面部としての意匠自体の正確な外観の違いが把握できないことになる。
審決は、本願意匠の構成を誤って認定し、この相違点を看過した。
(2) 審決は、本願意匠と引用意匠とにおいて、中空開口部における入れ子縁の有無の相違及び両意匠における左右縦框の形状の相違を看過した。
すなわち、本願意匠においては、細幅の入れ子縁(額縁材)がパネル面部側のみに設けられて、中空開口部には設けられていないのに対し、引用意匠においては、細幅の入れ子縁がパネル面部及び中空開口部の両方に設けられている点で、両意匠は相違する。このような相違は門扉全体のバランス態様の印象に大きな影響を与えるものである。
また、本願意匠において、左右縦框は、厚さ方向において、正面視左右端縁の長手方向に面取りがされていて上下框を面落ちさせて結合させる面内納まりとなっているとともに、その上下端面が上下框と面一の納まりとなった框組であり、かっパネル面部は、表面が上下框に対して面落ちした納まり関係で、縦框よりも突出しない入れ子縁を介して組み込まれているのに対し、引用意匠においては、左右縦框は、面取りがなく、かっ上下框と面一の結合納まりとなっているとともに、その上下端面が上下框に対して上下方向に突出した角納まりの態様となっており、かつパネル面部は、その表面が上下框に対して面一状とした納まり関係で、四周框よりも突出した入れ子縁を介して組み込まれているという点で、両意匠は相違し、かかる相違は門扉に与える印象や門扉そのものの基調に重要な影響を与えるものであるところ、審決は上記相違点を看過した。
2 取消事由2(類否判断の誤り)
審決は、上記のとおり相違点を看過したうえ、意匠法3条1項3号の規定の誤った解釈に基づいて、類否判断をした結果、本願意匠は引用意匠に類似すると、誤って判断した。
(1) 意匠法3条1項3号は、「前二号に掲げる意匠」から容易に創作し得たか否かという、デザイン要素それ自体に対する斬新性や応用性の是非を問題としているのではなく、「前二号に掲げる意匠」との間で二般需要者の立場から対比観察することにより、その美感の類否が問題となるのに対し、同条2項は物品との関係を離れた抽象的な広く知られたデザイン要素との結合を基準として、当業者の立場からみた着想の新しさ、ないしは独創性を問題としている。ここに「一般需要者の立場」とは「市場に供された実際の具体的な物品を見て購入を欲しようとする者の立場」であり、同法2条1項に規定する「意匠」の定義から明らかなように、物品と形状、模様等(モチーフ)とは一体不可分の関係にある。
したがって、意匠法3条1項3号の該当性を判断するに当たっては、本願意匠と引用意匠とのデザイン要素の違いを、物品と一体不可分のものとして把握し、両意匠に係る物品が、市場に供されたときを想定して、一般需要者の立場に立って、両意匠を対比観察することにより、商品購入の意思決定に影響を及ぼすほどの美感の違いとなって表れているか否かを個々に検討して、類否判断を行なうべきである。
ところが、審決は、意匠法3条2項で規定される登録要件において評価されるべき本願意匠が採用した物品から遊離したデザイン要素そのもの自体についての着想の新規性や創作の応用性について評価した結果、本願意匠が引用意匠に類似すると誤って判断した。
すなわち、審決は、相違点<1>の判断において、「扉体の枠体内のパネル面部を構成する板体の周縁部を面取りすることは、本願の出願前から、この種の物品の分野においては、むしろ普通になされている態様であって、本願意匠の板体の前後面の上下の角部を面取りした点は、ありふれた改変にとどまり、特徴がある態様とはいえず」(審決書5頁11~17行)と認定しているが、このような認定は、デザイン要素それ自体に対する斬新性や応用性の是非を問題としたものである。
上記認定に基づいて、これらの存否は類否判断に影響を与えないとの審決の判断は、創作性を要件とし、しかも物品とは遊離した形態に基づいて判断するとの立場に立つものであって、意匠の定義に合致しないばかりか、最高裁判所が示した判断にも合致しないものである(甲第11及び第13号証)。
被告の意匠法3条1項柱書に基づく主張は、同柱書の「創作をした者」についての解釈を誤ったものである。「創作をした者」については、「意匠登録を受けることができる者」と解するのが正当であって、「創作」の文言をもって、意匠法3条1項各号の新規性の要件に「創作性の要件」までも含めて判断してよいと解することはできない。
原告らが専門用語を用いて主張しているのは、本願意匠及び引用意匠の各部の外観的構造を特定するためであって、一般需要者はかかる専門用語を知らなくてもその外観を把握できるものである。
(2) 上記した意匠法3条1項3号の規定するところに従って、本願意匠と引用意匠を対比すると、両意匠は、框組されたものの左寄りに縦桟を配して左右に区画部を形成し、かつ広幅区画部に横に長い板体を外数並設して加飾面部にし、かつ幅狭区画部に中空開口部を形成するデザイン要素については共通しているが、両意匠に係る物品である框組された門扉にあっては、外観を占める割合が最も大きいパネル面部の違いが、一般需要者の商品購入の意思決定に影響を及ぼす重要な要部となるところである。
そこで、両意匠のパネル面部たついてみると、本願意匠のパネル面部は、戸板若しくは入れ子板によって形成された条溝を介して、帯桟を上下の入れ子縁に呑み込ませることなく、上下にずらりと並べた態様が、一つの意匠的まとまりとなって顕著に表出された外観を呈しているのに対し、引用意匠のパネル面部は、目地状の条溝を介して、羽目板を上下の入れ子縁に呑み込ませて上下に並べた態様が、一つの意匠的まとまりとなって目地切り下見(ドイツ下見)の外観を呈するという決定的な違いとなって表れている(原告ら作成の「本願意匠と引用意匠の対比図」・甲第9号証の1~4)。
さらに、上記のようなパネル面部の外観上の違いと相まって、本願意匠では、面内により目通しして厚み方向に引き立たせた縦框と、上下框に対して面落ちさせ、帯桟を上下にずらりと並べた起伏の激しいパネル面部との取合わせを、縦框から突出することのない入れ子縁によって奥行き感のある広がりを与えて、中空開口部側には飾り感のないものとし、これらが一体不可分に融合した躍動的な美感を持った門扉としての外観を呈している。
これに対し、引用意匠では、面一に同化させた四周框と、羽目板を上下に並べた目地切り下見の平滑なパネル面部とを略面一にして、その取合わせを、四周框よりも突出させた入れ子縁によって、あたかも平滑面板に凸状のモール飾りを配した感じを与え、この凸状モールの飾り感を中空開口部にも配して両区画部をバランス化させ、このものに左右縦框が角柄状に突出し、そして、これらが一体不可分に融合した静的な美感を持った門扉としての外観を呈している。
以上のとおり、両意匠は、「物品を形造るための骨子となる構成部材を配置させた」という概念的なデザイン要素が共通するのみで、物品それ自体の外観を決定づけるために、一体不可分に結びつけているデザイン要素が施されている個々の構成部材については、共通するものなど全く存在せず、これらの外観の違いは、両意匠の基調そのものを左右する程の大きな外観の違いとなって表れており、両意匠に係る物品が市場に供された場合、一般需要者は、これらの外観の違いから誘発される美感の差異を明確に区別して、商品購入の意思決定をすることが明らかである。しかも、引用意匠のようなパネル面部の外観は、門扉に限られず広く採用されている周知の外観であるから、本願意匠と混同きれることはあり得ない。
したがって、両意匠は類似しない。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であって、原告らの主張はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
(1) 「目板」とは、板の継ぎ目のところに打ち付けた幅の狭い木をいう(「建築用語図解辞典」・乙第1号証344頁)ものであるところ、審決は、条溝を広幅の板体と対比して、細幅帯状に形成されている板体、すなわち目板のように幅の狭い板体を「目板状板体」と形容して表現したものである。
本願意匠にも細幅帯状に形成されている目板のように幅の狭い板体は存在するから、審決の、両意匠の共通する具体的な態様の認定に誤りはなく、目板状板体に係る相違点の看過はない。
(2) 本願意匠においては、引用意匠とは異なり、中空開口部に入れ子縁(額縁材)が設けられていないことは、原告ら主張のとおりである。
しかし、引用意匠の中空開口部の内側に取り付けた細幅の枠体は、引用図面(C-C縁一部省略拡大断面図)から明らかなように、引用意匠の門扉を取り付け実施するに当たり、その中空開口部に板又はガラス等を嵌め込むために前もって便宜上取り付けた縁材である。このよにう取り付け実施使用する前の門扉において、その中空開口部に各種の装飾板又は装飾ガラスを、使用者が好みにより適宜選択し取り付けることを考え、前もって枠体内側に装飾板又は装飾ガラスを取り付けるための細幅の枠体を付設しておくことは、この種の物品にあっては広く一般に行われていることであり、したがって、枠体を付設すること自体に形態上の特徴があるとも、また、意匠上の創作があるともいえない。まして、引用意匠の中空開口部に取り付けた枠体は、右方のパネル面部に取り付けた入れ子縁と態様をほぼ同じくし、形態的にもそこに何ら特徴がなく、これが上記のような目的をもって単に取り付けただけのものであるので、なおさらのことである。
本願意匠は、このような枠体を取り付けなかったまでのものであるから、その有無は両意匠の類否判断に何の影響をも与えるものではなく、これを相違点として取り上げて評価する程のものではない。
また、原告らが主張する左右縦框の面取りの有無についても、本願意匠にみられるその面取りは、扉の周囲を形成する広幅の枠体の角部にきわめて僅かに形成されたものであり、引用意匠においても、引用図面(A-A線及びC-C線各一部省略拡大断面図)において特にその部位を注意してみた場合に初めて認識される程度のものである。加えて、この種の物品の属する分野にあっては、枠体の外周部に本願意匠のようにきわめて細幅の面取りを施すという程度のことは普通になされていることである。したがって、この点も相違点として取り上げて評価する程のものではない。
原告らは、縦椎に形成した面取りの有無により、両意匠は、縦框と上下框の納まりが面内納まりか、面一の納まりかに、形態上の相違があると主張するが、その違いも、本願意匠の縦框に形成した面取りがきわめて僅かに面取りしたものであるので、その結果が表れる縦框と上下框の納まりにみられる相違もきわめて僅かなものとなり、全く看者の注意を惹かないものである。
そして、この種の物品の属する分野にあっては、意匠登録第443489号公報(甲第6号証)や意匠登録第545492号公報(甲第8号証)にみられるように、縦框の上下端を上下框と面一の納まりとすることも、上下端を上下方向に突出した納まりとすることも、枠組の態様としてはきわめて普通にみられるものであり、特に形態上の特徴をなすものではない。
したがって、相違として取り上げて評価する程のものではない。
(3) 両意匠の扉体の態様は、骨太の角柱状の枠体とその内方を構成する肉厚で横に長い広幅の板体を多数枚並設したパネル面部とから形成されているというところから受ける印象が圧倒的なものであり、上記のいずれの相違も類否判断を左右する要素として取り上げるに足りないものであるから、審決は、あえて相違として取り上げなかったまでであって、相違点を看過したものではない。
2 取消事由2について
(1) 意匠法3条1項に基づいて、意匠が新規なものとして登録を受けることができるために、その意匠の各部にみられる公知意匠との相違につき、それぞれ創作性があるとか、その相違が形態上の特徴となって表出されているとかなど相違点の評価がされ、それが形態全体に影響を与えるものでなければならない。
これを本願意匠についてみると、審決認定の本願意匠と引用意匠との具体的な態様の相違点、特にパネル面部の板体の前後面の上下の角部を面取りしたか否かの相違については、そこに何らの形態上の特徴あるいは創作性の存在も窺えない。すなわち、この種の態様をなす扉体にあっては、そのパネル面部の板体の周縁部に本願意匠のよう、に面取りをするということは、本願出願前から、この種の物品の分野においては、広くなされている態様であって、この程度のことは、ありふれた改変であるといわざるをえないものである。
このように、本願意匠にみられる相違点については、形態上の特徴となりえないもの、また、意匠の形態上につき創作性のないものであるので、審決認定の両意匠の具体的な態様の相違点は、結局、結果として、共通するとした特徴の中に包摂される微弱な相違であり、本願意匠は引用意匠に類似する意匠として、意匠法3条1項3号に該当するものである。
したがって、審決に意匠法3条の解釈についての誤りはなく、相違点についての認定物断は正当である。
(2) 原告らは、両意匠に相違するデザイン要素を主張するが、これは、原告らが専門家の立場に立って両意匠の細部における構造上の違いを専門用語を用いて先入観を入れて誇張した主張にすぎない。
第5 証拠関係
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 本願意匠と引用意匠の各部の具体的な態様について、審決認定のとおり、「枠体部の各框と縦桟を偏平矩形状筒体とし、上下の框を縦椎よりやゝ広幅とし、縦桟を縦框よりやゝ細幅とし」(審決書3頁11~14行)、パネル面部の「条溝を等間隔に設けている点が共通する」(同3頁16~17行)ことは、当事者間に争いがない。
原告らは、引用意匠には「目板状板体」が存在するが、本願意匠には「目板状板体」は存在しないと主張する。
本願意匠を示す本願図面及び引用意匠を示す引用図面によれば、両意匠のパネル面部は、板体を同幅とする相対的に広幅の板体間に、この板体の面から段差のある位置に面が来るようた細幅の板体を設けて、これらを順次嵌合させて、パネル面部に等間隔な条溝が形成されるようにした点が共通するものと認められる。
そして、「建築用語辞典」(甲第4号証944頁)及び「建築用語図解辞典」(甲第5号証130頁、乙第1号証344頁)によれば、「目板」とは、板の継ぎ目のところに打ち付けた幅の狭い板をいうものであるが、それは、2枚の板の面が同一面となるように板同士の端部を突き合わせて連結させた場合に生ずる板と板との継ぎ目を覆い隠すために、その継ぎ目を覆うように打ち付けられた幅の狭い板をいうものと認められ、そうすると、本願意匠及び引用意匠におけるように、広幅の板体同士の端部を突き合わせて連結するのではなく、広幅の板体の間に細幅の板体を順次嵌合させて条溝を形成させたものにおける細幅の板体を「目板」ということは、用語として不適切といわなければならない。
したがって、審決が、本願意匠及び引用意匠における細幅の板体を「目板状板体」と表現したことは、誤解を招く表現といわなければならないとともに、原告らが引用意匠においては目板が存在すると主張する点も採用できないものといわなければならない。
審決は、両意匠において、パネル面部の条溝が、同幅の広幅の板体の間に細幅の板体を設けて、これらを順次嵌合させて、パネル面部に等間隔の条溝が形成されていることにおいて、両意匠が共通することを述べているにすぎないことは、その記載に照らし十分に理解できることであり、この点において審決の認定に誤りはないというべきである。
原告らは、両意匠における細幅の板体につき、パネル用型材(板体)との取付けにおける相関関係の差異による態様の差異を主張する。
本願図面及び引用図面によれば、上記細幅の板体は、本願意匠においては、1枚の板体がパネル用型材の小ばの中央に取り付けられて形成されているのに対して、引用意匠においては表裏2枚の板体がパネル用型材の小ばの中央に間隔を隔てて取り付けられて形成されていて、パネル面部の条溝の深さに差異が生じており、また、上下の入れ子縁と広幅の板体の間に、本願意匠においては、細幅の板体が設けられて、条溝が形成されているのに対し、引用意匠においては、上下の入れ子縁に広幅の板体がそのまま接入されていて、条溝が形成されていないことが認められ、このようなパネル用型材と細幅の板体との取付けにおける相関関係の差異により、両意匠の形態に差異が生じているものと認められる。
しかし、この差異は、相違点<3>として、「条溝を、本願意匠は、深い条溝としたのに対して、引用意匠は、浅い条溝としている点、また、上下の入れ子縁と板体の間に、本願意匠は、条溝を設けたのに対して、引用意匠は、条溝を設けていない点」(審決書4頁6~10行)と認定したところであるから、審決のパネル面部の構成の認定において、原告ら主張の上記差異点を看過したということはできない。
(2) 本願意匠と引用意匠との間に、中空開口部における入れ子縁(額縁材)の有無、左右縦框の面取りの有無及び縦框の上下端の態様の差異など、原告らが取消事由1(2)で主張する差異があることは、被告も認めるところである。
この差異が、原告ら主張のように両意匠の類否の判断に影響を及ぼすものかどうかは、次項において、検討する。
2 取消事由2(類否判断の誤り)
(1) 本願意匠と引用意匠に係る物品が一致すること、両意匠が、審決認定のとおりの基本的構成態様(審決書3頁1~10行)を共通にするものであることは、当事者間に争いがなく、また、両意匠は、その具体的態様において、枠体部の各框と縦桟を偏平矩形状筒体とし、上下の框を縦框よりやや広幅とし、縦桟を縦框よりやや細幅とし、両者のパネル面部は、板体を同幅とする相対的に広幅の板体間に、この板体の面から段差のある位置に面が来るように細幅の板体を設けて、これらを順次嵌合させて、パネル面部に等間隔な条溝が形成されるようにした点において共通するものであることは、前示のとおりである。
一方、両意匠が、その具体的態様において、審決認定のとおり、「<1>横長幅広の板体を、本願意匠は、前後面の上下の角部を面取りしたのに対して、引用意匠は、同部を直角状としている点、<2>並設した該板体の枚数を、本願意匠は、10枚としたのに対して、引用意匠は、16枚としている点、<3>条溝を、本願意匠は、深い条溝としたのに対して、引用意匠は、浅い条溝としている点、また、上下の入れ子縁と板体の間に、本願意匠は、条溝を設けたのに対して、引用意匠は、条溝を設けていない点」(審決書3頁20行~4頁10行)において相違すること、さらに、両意匠には、原告らが取消事由1(2)で主張する点において差異を有することは、当事者間に争いがない。
(2) 以上の事実を前提として両意匠を検討すると、両意匠の共通する構成態様である、縦長矩形状枠体の内側左寄りに、枠体の横幅の略1/3の位置に縦桟を設けて、左方の区画部を中空とし、右方の区画部を、横長の同幅で広幅の板状多数枚を並設して、板体間に条溝を設けてパネル面部とし、そのパネル面部を囲む各框と縦桟との間に、細幅の入れ子縁を設け、枠体部の各框と縦桟を偏平矩形状筒体とし、上下の框を縦框よりやや広幅とし、縦桟を縦框よりやや細幅とし、両者のパネル面部は、板体を同幅とする相対的に広幅の板体間に、この板体の面から段差のある位置に面が来るように細幅の板体を設けて、これらを順次嵌合させて、パネル面部に等間隔な条溝が形成されるようにした態様は、意匠的まとまりを形成し、美感を想起させる視覚的訴求力が強く、両意匠の全体的な態様において、両意匠が共通しているとの支配的な印象を与えるものと認められる。
(3) これに対して、前記相違点のうち、相違点<1>の、本願意匠がパネル面部を構成する同幅の広幅板体の前後面の上下の角部を面取りした点は、昭和57年6月発行の「室内」6月号臨時増刊「建具雛型全集」(乙第2号証)にみられるとおり、この面取りした広幅板体間に細幅の板体を設けて、広幅板体と細幅板体を順次嵌合させて、条溝を等間隔に設ける構成とともに、従来から行われてきた扉面の構成であって、これは、広幅板体間に細幅の板体を設けて、広幅板体と細幅板体を順次嵌合させて、条溝を等間隔に設けている両意匠の共通する態様に埋没する程度の視覚的訴求力しかなく、両意匠を異なったものと認識させるまでに至らない微差にすぎないものと認められる。
相違点<2>の、並設した板体の枚数の差異は、並設した板体の幅の広さの認識に影響を与える程の差異ではなく、本願意匠の板体の前後面上下の角部を面取りしたことにより、本願意匠の板体の前後面の幅が引用意匠の板体の幅に近い印象を看者に与えるものと認められ、同幅の横長広幅の板体を多数枚並設して構成する両意匠の共通する態様の中の僅かな改変にすぎないと認められる。
相違点<3>の、条溝における深さの差異については、本願意匠の条溝の深さも、板体の前後面上下の角部を面取りすることにより、引用意匠の条溝の深さに近い印象を看者に与えるものと認められる。そして、上下の入れ子縁と板体との間の条溝の有無も、パネル面部の上下端部の構成の差異であって、パネル面部全体にわたる広幅の板体と細い条溝が交互に規則的に表れている両意匠の共通する態様からすれば、これをもって、両意匠を別異のものと認識させる意匠的特徴ということはできない。
(4) 原告らが取消事由1(2)で主張する両意匠の差異のうち、本願意匠においては、細幅の入れ子縁(額縁材)がパネル面部側にのみ設けられて、中空開口部には設けられていないのに対し、引用意匠においては、細幅の入れ子縁はパネル面部及び中空開口部の両方に設けられている点については、本願図面及び引用図面によれば、引用意匠の中空開口部に設けられた枠体は、右方のパネル面部に取り付けられた入れ子縁と態様をほぼ同じくし、特に看者の注意を惹くものではなく、その意匠的効果は微弱なものというべきであり、両意匠の全体的構成のうちにおいて、両意匠間に美感の相違を惹起するに足りる差異ということはできない。
次に、本願意匠においては、左右縦框は、厚さ方向において、正面視左右端縁の長手方向に面取りがされていて、上下框を面落ちさせて結合させる面内納まりとなっているとともに、その上下端面が上下框と面一の納まりとなった框組であり、かつパネル面部は、表面が上下框に対して面落ちした納まり関係で、縦框よりも突出しない入れ子縁を介して組み込まれているのに対し、引用意匠においては、左右縦框は、面取りがなく、かつ上下框と面一の結合納まりとなっているとともに、その上下端面が上下框に対して上下方向に突出した角納まりの態様となっており、かつパネル面部は、その表面が上下框に対して面一状とした納まり関係で、四周框よりも突出した入れ子縁を介して組み込まれているとの相違点は、前示両意匠に共通する基本的態様及び具体的態様から両意匠に生ずる全体的な共通する美感を左右するに足りるほどの意匠的差異とは認められない。
(5) 以上のとおり、本願意匠と引用意匠との相違点はいずれも、両意匠の美感を左右するに足りない微差というほかはなく、これら相違点を総合して検討しても、両意匠を別異の意匠とする程度の美感の相違はないものといわなければならない。
したがって、本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはない。
なお、原告らは、審決が、意匠法3条1項3号の規定の誤った解釈に基づいて、類否判断をした結果、本願意匠は引用意匠に類似すると、誤って判断したと縷々主張する。
しかしながら、上記のとおり、本願意匠と引用意匠との相違点はいずれも、両意匠の美感を左右するに足りない微差であって、本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはないのであるから、審決が意匠法3条1項3号の規定の誤った解釈に基づいて判断したために、類否判断を誤ったとは認められないので、原告らの上記主張は採用できない。
3 以上のとおり、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)
平成3年審判第8414号
審決
東京都豊島区南池袋2丁目22番1号
請求人 三和エクステリア 株式会社
東京都新宿区西新宿2丁目1番1号
請求人 三和シヤッター工業 株式会社
東京都千代田区神田神保町2-23 尚美堂ビル703号
代理人弁理士 廣瀬哲夫
昭和62年意匠登録願第14988号「門扉」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
この出願の意匠は、昭和62年意匠登録願第14985号の意匠を本意匠とする、昭和62年4月16日の類似意匠登録出願に係り、願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、その要旨は、意匠に係る物品を「門扉」とした別紙第一に示すとおりとしたものである(以下「本願意匠」という)。
これに対して、原審で拒絶の理由として引用した意匠は、昭和56年2月2日特許庁発行の意匠公報に記載の意匠登録第549123号(出願日、昭和52年6月15日、登録日、昭和55年11月28日)の意匠であって、同公報の記載によれば、その要旨は、意匠に係る物品を「門扉」とした別紙第二に示すとおりとしたものである(以下「引用意匠」という)。
そこで、本願意匠と引用意匠について、比較検討すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態については、以下に示す共通点と相違点がある。
すなわち、両意匠は、左右に立設した2本の縦框の上下端部に各1本の上框と下框を架設して、縦長矩形状の枠体を形成し、該枠体の内側の左寄りに、枠体の横幅の略1/3の位置に縦桟を設けた扉体であって、左方の区画部を、中空にして開口部とし、右方の区画部を、横に長い幅広の板体を多数枚並設し、板体間に条溝を設けてパネル面部とし、パネル面部を囲む各框と縦桟との間に、細幅の入れ子縁を設けている、基本的構成態様が共通するものである。
そして、各部の具体的な態様については、枠体部の各框と縦桟を偏平矩形状筒体とし、上下の框を縦框よりやゝ広幅とし、縦桟を縦枢よりやゝ細幅とし、パネル面部の条溝を、板体を同幅とする板体間に細幅の目板状板体を設けて、該板体と目板状板体を順次嵌合させて、条溝を等間隔に設けている点が共通するものである。
一方、両意匠の具体的な態様の相違点は、以下のとおりである。
<1>横長幅広の板体を、本願意匠は、前後面の上下の角部を面取りしたのに対して、引用意匠は、同部を直角状としている点、
<2>並設した該板体の枚数を、本願意匠は、10枚としたのに対して、引用意匠は、16枚としている点、
<3>条溝を、本願意匠は、深い条溝としたのに対して、引用意匠は、浅い条溝としてしる点、また、上下の入れ子縁と板体の間に、本願意匠は、条溝を設けたのに対して、引用意匠は、条溝を設けていない点である。
そこで、これらの共通点と相違点を総合して、両意匠を全体として考察すると、前記の共通するとした基本的構成態様と各部の具体的な態様である、縦長矩形状枠体の内側左寄りに、枠体の横幅の略1/3の位置に縦桟を設けて、左方の区画部を中空とし、右方の区画部を、横長の同幅で幅広の板体多数枚を並設して、板体間に条溝を設けてパネル面部とし、そのパネル面部を囲む各框と縦桟との間に、細幅の入れ子縁を設け、そして、各框と縦桟を偏平矩形状筒体とし、上下の框を縦框よりやゝ広幅とし、縦桟を縦框よりやゝ細幅とし、板体間に細幅の目板状板体を設けて、該板体と目板状板体を順次嵌合させて、条溝を等間隔に設けているところの態様は、両意匠の形態上の特徴を最もよく表わしており、意匠的まとまりを形成し、かつ、形態全体の支配的部分を占めるものであり、看者の注意を最も強く引くところであるから、類否判断を左右する要部をなすものである。
これに対して、具体的な態様における相違点の、
<1>の本願意匠が、板体の前後面の上下の角部を面取りした点であるが、扉体の枠体内のパネル面部を構成する板体の周縁部を面取りすることは、本願の出願前から、この種の物品の分野においては、むしろ普通になされている態様であって、本願意匠の板体の前後面の上下の角部を面取りした点は、ありふれた改変にとどまり、特徴がある態様とはいえず、
<2>の並設した該板体の枚数を、本願意匠は、10枚としたのに対して、引用意匠は、16枚としている点の差は、本願意匠の板体の幅が引用意匠の板体の幅よりやゝ幅広とした点にあるもので、本願意匠の板体の前後面は、その板体の前後面上下の角部を面取りしたことにより、前後面の幅広の面がむしろ引用意匠に近いものとなっており、同幅の横長幅広の板体を多数枚並設して構成した共通する態様の中にあっては、板体の枚数及びその幅の差は、細部の変更にとどまるものであり、これもまた特徴がある態様を表わしているともいえず、
<3>の条溝について、本願意匠は、1枚の目板状板体を板体の小ばの中央に設けたのに対して、引用意匠は、2枚の目板状板体を板体の小ばの中央に間隔を隔てゝ設けていることによって、条溝の深さに差が生じているものであるが、本願意匠の条溝の深さも、板体の前後面の上下の角部を面取りしたことにより、さほど深い条溝とならず、引用意匠のパネル面部の態様から惹起される印象にむしろ近い態様となっており、また、上下の入れ子縁と板体の間の条溝の有無も、その部位を抽出して注視することによって生ずる細部の相違であって、幅広の板面と細い溝が交互に規則的に表われている点においては、両意匠とも共通しているものであるから、それらの相違は微細な相違というほかない。
してみると、前記した相違点は、いずれも部分的な差ないしは僅かな差で、前記の共通するとした特徴の中に包摂される微弱な相違といわざるをえないものである。
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、形態上の特徴を最もよく表わし類否判断を左右する要部において共通しており、具体的な態様の相違点を総合しても、共通点を凌駕し類否を左右するものではないので、本願意匠は、引用意匠に類似するものというほかない。
したがって、本願意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載のものに類似するから、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同条第1項の規定により意匠登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年1月23日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)